天気予報に燥ぐ

天気予報に燥ぐ


いちくら街、商店街。
いちくら街の商店街は学園に近く、生徒達がふらりと立ち寄りやすい位置にある。街の中心部に大きめのショッピングモールができたため斜陽気味と噂されてはいるが、住民は今日も元気に商売をしており今のところシャッター街になる様子は見受けられない。
それは商店街の外れも例外ではなく、湯飲白湯が経営する焼き物屋『ゆのみ』からは楽しそうな話し声がもれていた。ゆのみの店主は声がよく通るためしばしば外にもれている。商店街の外れに来ても賑やかさが残るのは彼女の笑い声の影響もあるのだろう。

「真嶋くん!!」
店の奥で茶碗を形作っていた湯飲白湯(ゆのみさゆ)が興奮気味に真嶋優(ましま ゆう)を呼んだ。
真嶋優はゆのみのアルバイトだ。学校帰りに店番をして、客が来れば話をする。真嶋が店の奥に目を向けると嬉しそうに粘土を伸ばしている店主の姿があった。話題に尽きることなく世間話をよくする湯飲は作業場にラジオを置いている。人と話さない時間も話題を収集しているらしい。と言っても彼女は作業場にいる時も店側の客やバイトに話しかけるのでラジオを聞きながら静かに作業をしていることは少ない。今回はたまたま「聞く時間」だっただけだ。そんな彼女がテンション高く真嶋を呼んだのだ、何かいいニュースでも聞いたのだろうと思いながら返事をした。
「なんすか?」
「明日! 雪降るって! 朝から! ラジオさんが言ってた!」
雪が降るという情報だけでここまで嬉しそうにする湯飲は子供っぽいとよく称される。自称21歳だがとっくに成人を迎えているというのにいつまでも子供のような心を持ち続けている。そんな彼女の店でアルバイトをする真嶋も、似たような反応をした。雪が降るという言葉に目を輝かせる。犬は飼い主に似るというが、アルバイターも雇い主に似るのだろうか。
「マジっすか!!」
「マジっす! 遊ぼ!! 雪合戦しよ雪合戦!!」
湯飲が形を整えた茶碗を轆轤から外して他の作品と並べ窯に入れながら遊びの提案をした。遊ぶことが好きなのだ。真嶋も湯飲も毎日遊ぶことに全力を出している。
「うわサイコーっすね!? 雪合戦しましょ! えっ、つーか2人で!? 少な!! 一騎打ちじゃん!」
「一騎打ちだよー! 負けないよー!! 通りすがり巻き込もうね!! それよか積もるのかな!? 積もるといいねー!」
「あそっか、積もらねェと始まんないっすもんね!」
「積もっても誰かに燃やされたら溶けて終わりだから明日早めに来て!! 早めに遊ぼ! 出勤つけていいからね!」
いちくら街はよく燃える。学園に「焼き実習」という授業があるためそれは別段不思議なことではない。日常の一部に組み込まれた火と共に生活している。
いちくら街の住民は理由があろうとなかろうと突然火を焼べ燃やし始めるため、雪が降ったとしても早々に溶ける可能性がある。溶ける前に遊べ、湯飲と真嶋の考えは一致していた。
「よっしゃァ! じゃあ早朝に来るんで!」
「まって早朝はつらい。お湯さん起きてない」
「早起きしましょ!?」
「っていうか早朝に彷徨いてたら放火目的って思われるんじゃない? 大丈夫? 私真嶋くんが捕まりそうになったら無実を訴えるね!!」
「なんで捕まる前提の話してんすか!? 夜明け前じゃねェっすよ!?」
「えっ、早朝っていつ!? 登校前くらい?」
「そうっす! いやそォでしょ!? あれ早朝って言わないんすか!?」
夜明け前に街を彷徨く住民は時折何かを燃やしている。何度でもいうがいちくら街で放火など日常茶飯事なので仮に真嶋が夜明け前に放火をしたとしても捕まることはほぼない。捕まる捕まらないというのは人相の話である。真嶋の人相は悪くは無いがいいとも言えなかった。見た目だけで言うなら不良やヤンキーと思われても不思議ではない。が、彼は不良でもヤンキーでもない。顔と行動範囲が広いので4組の羽街洲流斗(はまちすると)のような不良やヤンキーとも交友があるものの、放火趣味な一般的な人間である。湯飲はそれを知っていて少しの皮肉を込めていっていた。湯飲は皮肉屋なところがある。彼女と付き合いがあれば一度は聞いたことがあるだろう。本人に悪意がないので性質が悪い。しかし同時にそれはするりと受け流すことができるということでもあった。現に真嶋は湯飲の言葉を受け流している。
「早朝って色々あるんだ! すごいね!!」
「雑すぎねェ!?」
「登校前にお店寄るならあれ着て来て欲しいなー! あのねー!」
「羽生えてるスタジャン?」
「それー!! なんでわかったのすごいね!!」
「あれ着てくと湯飲さんめっちゃ喜ぶから覚えたんすよねェ」
真嶋は鳥と魚が好きだ。制服以外で持っている服は魚や鳥をイメージさせるデザインのかなり個性的なものが多い。羽の生えたスタジャンも、背中側に大きな翼の模様がかかれているものだ。湯飲はそれを見た時から可愛いと言っていて真嶋がそれを着て店に来る度に喜んでいた。
「俺のお気に入りっつゥよか湯飲さんのお気に入りの服みたいっすよね! 俺もあれ好きっすけど!」
「めっちゃ好き! 羽はえんだよー!? 可愛いよー!!わはー明日楽しみだねー!」
湯飲はふんふんと鼻を鳴らして笑顔を見せた。ラジオは既に天気予報を終えて別の話をしていた。ゆのみは閉店まで明日の雪の話でもちきりだった。湯飲と真嶋はその日、来客と「明日は雪が降る」と嬉しそうに話を広げていた。
商店街外れの焼き物屋は今日もいつも通り賑やかな声がもれている。冬の日照時間は短く、閉店する頃にはすっかり日が落ちていた。真嶋が外に出るとツンとした空気が肌に触れた。吐く息が白い。
「うわ寒ィ」
「真嶋くん今日何も上着来てなかったけど大丈夫? 袢纏かそうか?」
真嶋が身震いしていると引き戸から湯飲が心配そうに眉を下げた顔を覗かせた。手には袢纏。取りに戻っていたのだろう。
「え、いいんすか?! 走って帰ろうと思ってたわ! あざす!」
「いいよー! 明日返して!」
明日は雪が降る。



17/12/02_明日は雪が降るんだって/お気に入りの服

  • 最終更新:2017-12-06 13:04:24

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