わらしべサンタ

わらしべサンタ



「うわ、マシマシ…? だよな? なんだよそれ」
「おォー! 洲流斗おはよう!」
羽街洲流斗(はまち すると)は目を見開いた。
真嶋優(ましま ゆう)はその日、サンタクロースを連想させる大きな袋を担いで登校していた。サンタの格好をしているわけではなく、普段の制服に、大きな袋である。羽街は連想したままの人物を口にした。
「サンタ?」
「すげェ! よくわかったな!」
「いや…」
すごいと笑う真嶋に言い淀む。普通の白い袋ならそこまで目立たなかったのかもしれないが、真嶋の持つ袋の色は白ではなかった。ギラギラと鈍く光を反射させる銀色は、サンタが持つには物騒だった。というかサンタが持つようなものではない。それなりに派手好きである羽街も理解できないと眉を寄せて、やっとのことで言葉を吐き出した。
「なんだそれ?」
「これはサンタの袋だな!」
「いやわかる……、いや…わかんねえけど。ってそうじゃねえよ、なんでその色してんだ?」
「銀なのは来る途中に……あ、名前ド忘れしちまったけど、通りすがりのサンタがわらしべしてて、取替えたんだわ。始めは白い普通の袋だったぜ」
真嶋が言うには、知らないサンタを名乗る誰かと出会って、白い袋と銀の袋を交換したらしい。真嶋がザックリとした説明を終えると、面白ェよな、と軽快に笑った。彼にとって袋の色は差して問題ではないらしい。
それにしても、なぜ銀の袋なのか。中に爆弾が入っていたりしないだろうか。羽街が訝しんでいると、彼の背後から男子生徒の慌てた声と謝罪めいた言葉それから、みかんが、飛んできた。
「おはよ~優くん! 洲流斗くん! 危ないよ~~!」
それなりのスピードで接近してくる喋るみかんを、羽街が反射的に避けると、真嶋がボールを受け止めるようにして捕まえた。捕まえられたそれに、驚きつつも挨拶を返す。
「! ……はよ」
「おォ! おはようみかん! 速かったなァ 」
「お~! ナイスキャッチ! うん! あのね~、さっき雪玉と間違われて思いっきり投げられたんだ~~!」
なかなか悲惨な間違われ方をして飛んできたこのみかんは、0組にいる生徒である。温州みかん(うんしゅう みかん)という名前で、所謂「残機制」の生徒だ。死ぬと残機が減り、復活する。
「これで壁とかに当たってたら死んでたよね~」
温州は軽い口調で物騒なことを言ってのけると、真嶋の袋に跳び移った。その袋の上でまた、驚いたように飛び跳ねる。
「なにこれ!?」
「マシマシがわらしべ長者と交換したサンタの袋」
「わらしべ長者?」
「何か知らねえけど、交換したんだってよ」
「サンタから、な!」
「えっ、これ中身その人の持ち物だよね? 大丈夫? 爆弾入ってない?」
「中身は交換した時に入れ替えたから、俺の用意したプレゼントが入ってるぜ」
温州の疑問と羽街の懸念が同時に解決された。中身は普通らしい。気になることが解決された羽街は、くるりと校門の方を向いた。朝から色々なことがありすぎた。驚き続きで授業など受けていられない。適当な理由をつけて、帰ろうというのだ。羽街は校門の外側に向けて足を一歩、踏み出した瞬間にガシッと肩を掴まれた。
「どこ行くんだ? 忘れもん?」
「バックレるんだよ。なんか疲れたから」
「不良だ不良! ひゅー!」
「折角朝から来たんだし1限は出ようぜ、な! 授業なんて一瞬で終わるって! ほら行くぞォ」
一人と一つに引き止められ、羽街は眉に皺を寄せる。そんな羽街の不機嫌をお構い無しに、真嶋は彼の襟を掴んでズルズルと引きずり始めた。
「マシマシ!? マシマシッ、待っ…!」
羽街が驚いて真嶋の名前を呼ぶ。後ろに引かれてバランスを崩しかけたが、猫のように首を持たれそのまま上に引っぱる力がかかり転ぶことはなかった。いつの間にか温州が自分の頭に乗っていて、先程バランスを崩した時に転がり落ちてしまったくらいだ。踏まなくてよかった、とちょっとだけ思った。
「おォ、大丈夫かァ洲流斗?」
「大丈夫だけど、人を引きずるんじゃねえよ! 危ないだろ!」
「ははは、でもコケなかったろ?」
引きずるのをやめた真嶋を睨みつけて羽街は体勢を立て直す。睨まれたことを気にしていないのか真嶋は笑って、羽街の炎のように立てた赤い髪を軽く混ぜた。セットが台無しである。羽街が唸った。
「面白かったよ洲流斗くん!」
「お前も面白がってるんじゃねえ、食うぞ」
「残機が減る!」
いつもの調子を崩さない彼らに、腹を立てていた自分がおかしいような気持ちになる。羽街はため息をついて、わかった、と呟いた。
「出るよ。出ればいいんだろ。くっそ、めんどくせえなあもう」
「おう! 偉い偉い!」
「不良が更生だ! すごい!」
「やめろ!褒めるんじゃねえ! マシマシは絶対1限後に来いよ!」
「わァってるって」


昼休み。3組の教室。
真嶋は春夏冬秋(あきなし しゅう)と蝶野てふてふ(ちょうの てふてふ)によって、飾り付けられていた。傍から見たら異様な光景だが、真嶋本人が面白がっているので、何も問題はないのだろう。
「できました!」
体に巻かれたピカピカと点滅する電飾に、ボールやら星の飾りがぶら下げられ、頭の上には綿、鼻と顎にはつけ髭という珍妙極まる格好に春夏冬が噴き出し、蝶野は満足げに頷いた。
「ひぃーーー!! ゆー! ちょっと! やばいよ!! めっちゃいい!! 写真撮ろ!」
「スーパーサプライズです! いい出来です!」
「ゆー、感想は!?」
「電飾が熱ィな!」
「あっははは、他にないの!?」
春夏冬は大笑いしながらツーショットを端末に収めると、今度は蝶野を真ん中に呼んでスリーショットを収める。三人で一頻り笑うと、春夏冬は飴の袋を開けた。自分の分を口に入れ、真嶋と蝶野に配る。
「飴! ありがとな!」
「ありがとうございます」
「っていうか、何で急に飾り付けしてっていって来たの? めっちゃ面白かったけどさ。てっふぃーと来た時ビビったよ」
「サンタさんになりたかったんだそうですよ」
「丁度良くてふてふに出会ったからさァ、飾り付けて欲しいっつったんだよな。そしたら折角だから春夏冬さんにも頼もうってなったんだわ」
真嶋が配られた飴を嬉しそうに受け取って口に入れながら、蝶野の言葉に付け加えた。ガリガリと飴が噛まれて削れる音がする。春夏冬が笑った。
「いや意味わかんないから!! そこはサンタの格好じゃないん!?」
「サンタになってるヤツは他にもいるかと思って。なァ?」
「はい!」
真嶋が蝶野に同意を求めて話を振ると、いい返事が返ってきた。春夏冬が銀色の大きな袋を指さす。
「えっ、じゃあさ、ゆーが持ってきたその謎な袋もサンタ関係ある?」
「それ、てふてふも気になってました」
「てっふぃー聞かなかったんだ!?」
蝶野が興味あり気に頷いた。
「大きい袋だなー、と思ってたんですけど、聞き忘れてたんですよね」
「聞き忘れるとかあるの!?!」
「飾り付けて欲しいって言われたらそんな、袋のことなんて飛びません?!」
「それもそうだ!」
笑う二人に、先程から真剣に飴を舐めていた真嶋が驚いたように短く声をあげた。口から出された棒にはもう飴がついていない。
「えっ? 寧ろサンタしか関係なくねェ? あれサンタの袋だよ」
「えっ」
「え!?!」
真嶋の答えに二人同時に同じ言葉を発する。それから銀の袋と真嶋を交互にみて、同時に噴き出した。
「嘘でしょ!? なんで銀なの意味わからんー!!!! 超ウケる!!!」
「武器背負ってるみたいだよ!!」
「わらしべに出会って白い袋と交換した!」
「わらしべって何!?! ひーーーぃぃぃ待ってーー! 無理ー!!」
「その辺歩いてたサンタって名乗ってるわらしべが居たんだよなァ…。今どこまで行ってんだろ」
「ってかそれわらしべ成功してなくないですか!? いい物になってないよね!?」
「やば!!!! ほんとだ、トレードしただけ!! 」
徐々に春夏冬の口調が移ってきている蝶野がわらしべ長者のサンタと真嶋の交換したものにつっこみを入れた。お互いがいい物に巡りあうのがわらしべ長者である。それを聞いた春夏冬がさらに笑って、机をバンバンと叩く。
「ホントだ! すげェ! 意味ねェ!」
真嶋ははっとして、銀の袋をまじまじと見つめた。少し置いて、いや、ちゃんとわらしべしてる、と零す。
「あの人は多分白い袋で誰かにプレゼント渡してるんだろうし、っつーか多分あの人はあの袋自体がプレゼントか、まァいいわ。そんで、俺もその袋で皆にプレゼント配るからアレだ! 大規模わらしべ?」
「大規模って何!!?」
「皆喜ぶ! 俺はその喜んだ顔みて喜ぶから、ほら、わらしべ!」
「本当だすごい!!」
「すごい!! プレゼントください!!」
「ください!!!」
「やべェ、プレゼント渡した気でいたわ。ごめんなァ、今渡す!」
真嶋は苦笑して、飾りを落とさないように徐ろに席を立つと袋から大量の甘いお菓子を取り出した。
「お菓子だ!」
「それ中身全部お菓子なの!?!」
「おォー、全部お菓子! はい。メリークリスマス!」
「雑かよー!!」
「うまいだろォ!? 普段プレゼントとかしないから全然思いつかなかったんだよ! あ、3組の皆も食う?」
ため真嶋がカラカラと笑ってお菓子を配る。コンセントでつながれた電飾を光らせるために遠くまで行けないので、寄って来てくれた人に渡すような形になる。サンタクロースと言うより、獲物を待つワニか給食当番のようだと誰かが言った。そうかもしれない。
真嶋を探していた羽街と、蝶野を探していた温州が3組に合流して、3組の教室が賑わい出した頃、昼休みが終わるチャイムが鳴った。
その後、真嶋は電飾をつけたまま袋と春夏冬の笑い声を担ぎ、コンセントを引きずりながら2組の教室へ帰って、クラスメイトと担任に驚きと笑いとお菓子を届けたという。
真嶋のわらしべサンタは放課後まで続いた。わらしべサンタは人伝にどんどんと広まり、彼が下校する頃には、大きかった袋はすっかり小さくなっていた。

  • 最終更新:2018-01-19 18:08:16

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