羽街洲流斗、天文台付近にて

 冬の冷たい空気が肌を刺す平日の昼間、学ランにマフラーをした羽街洲流斗は坂を登っていた。両手をズボンのポケットに突っ込み、寒さに肩を縮めて歩いているため、とても姿勢が悪く見える。
 洲流斗はいわゆる不良というやつで、教師と揉めて『エスケープ』してきたのだ。その内容もこれまた不良らしいもので、来春、進級する際のクラス替えに納得がいかないというもの。
 洲流斗の通う『いちくら学園』は学年に関わらず、一組は比較的おとなしい生徒が集められ、二組は派手好きな生徒、三組は不器用な……といった、クラスごとの特色がある。赤く染めてオールバックぎみに立てた――まるで炎のような――髪を持ち、爆破や学園内での花火など派手な非行が目立つ洲流斗は、学園中等部で三年間、そして高等部に上がって一年は、二組に所属していた。しかし、協調性の育成のため、高等部二年より四組――チームワーク重視のクラスに編成される運びになったのだ。
「仲良くなんてやってられるかよ」
 ぶつぶつと文句を言いながら歩く洲流斗が辿り着いたのは、高台にある天文台。この建物の中にカフェがあると、以前クラスメイトが話しているのを洲流斗は聞いていた。……しかし。
「夜しか開いてねえの……?」
 入り口の扉、開館時間の記載を見て洲流斗はため息を吐いた。苛立ちを拳に乗せ、壁に打ちつける。タイルの壁は黙って洲流斗の手を冷やした。
 天文台は高台に位置しているので、裏側に回れば街を一望できる。川沿いのバーベキュー場から、黒い煙が上がっているのが見えた。バーベキューではしゃいだ男達が、火をこれでもかと大きくして遊んでいるのだろう。この時間なら大学生だろうか。
「……仲良くなんてやってられるかよ」

 漂う淋しさに、本人は気付いていなかった。再びポケットに両手を差し込んで――今度はあてもなく――歩き出したその後ろ姿は、未来に漠然とした不安を見る、ただのひとりの少年であった。

  • 最終更新:2017-12-03 00:17:15

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